診療所の予約システム
成功するためのポイント、失敗しないためのアドバイス
ハマダ眼科 濱田恒一
はじめに
予約システムの導入に成功するとはどういうことなのでしょうか。
待ち時間が短くなった。在院時間が短くなった。
ということが予約システムの導入に成功するということなのでしょうか。
予約システムを導入してから8年になります。予約システムを導入して、予約率が上がり、予約制が機能しはじめまて7年半になります。先日、大学の先輩から、「濱田は予約制を薦めているが、患者さんは減るといっている。だから、予約制は導入していない。」と言われました。予約制の恩恵を十分に伝えることができていないと痛感しました。
そこで、はじめに、予約システムの導入後8年間で達成できたことを述べ、次に成功するためのポイント、失敗しないためにはどうすればよいのかを述べ、失敗の例とその解決策を述べたいと思います。
達成できたこと
2001年院内の有資格者は10名中2名だったが7名になった。
2007年10月から2009年9月の間に60眼に、遠近両用眼内レンズを挿入した。
2008年10月から2009年9月の間に150眼に選択的線維柱体形成術を施行した。
手術日の看護師の残業が大幅に減少した。
そして、一日の平均来院患者数は減少しているが、医療収入、医療利益ともに減少していないのです。
1. 一日の平均来院患者数は減少しているが、医療収入は減少していない。
予約システムは、増患には繋がらないと考えています。しかし、予約システムを導入することにより患者さんにも、職員にも、医師にも意味のある医療サービスが提供できるのではないかと考えています。
意味のある医療サービスの提供とは何かというと、医師が患者さんのために良いと考えるサービスの提供です。時間がないと、そして、患者さん、職員、医師の考えていることを同じにする対話がないと成立しません。先進の医療を提供し、享受していただくためには、新しい概念を提供し、理解していただかなければなりません。患者さん、職員、医師が同じように考えるまで、良いアドヘアランスを得るまで対話しなければなりません。コンサルティングから、カウンセリングへの移行には約3倍の時間を用意しなければなりません。
2. 無資格者から有資格者への再教育
2001年院内の有資格者は10名中2名の看護師のみでしたが、現在は10名中、看護師が3名、視能訓練士が4名の構成で、看護師1名、視能訓練士3名は、無資格者から、予約システム導入後に有資格者となりました。
予約で、リソースの消費が分散し、余剰リソースが生まれた。余剰リソースを有効利用するため、職員の再教育に投資した。その結果、院内の無資格者を有資格化できたということです。
もちろん、本人の資質、能力、意志もありますが、職員全体に過剰な負荷がかかっていなかったのが成果に繋がったのだと考えます。
3. 2007年10月から2009年9月の間60眼に、遠近両用眼内レンズを提供した。
遠近両用眼内レンズを提供するためには、十分な患者さんとの対話が必要となります。コンサルティングから、カウンセリングへの移行が要求されます。このため、医師が眼内レンズに関して患者さんと対話する時間を20分と設定しました。十分な患者さんとの対話が、先進医療の提供に繋がっていると考えます。
4. 2008年9月から2009年9月の間に150眼に選択的線維柱体形成術を施行した。
選択的線維柱体形成術の提供には、十分な患者さんとのコミュニケーションが必要となります。十分な患者さんとの会話が、多数の選択的線維柱体形成術の提供に繋がっていると考えます。
5. 手術日の看護師の残業が大幅に減少しました。
6時過ぎまでの残業が、4時30分には終了するようになりました。有資格者が業務を分担することにより、業務負荷の偏りが軽減し、職員間の不公平感の解消に繋がっています。
6. 先進の医療を手軽にがテーマです。
一人の医者しかいない診療所で、先進医療を提供するのは、なかなか難しいことだと考えます。一人の患者さんにかけられる時間が制限されるからです。しかしながら、予約制を導入し、一人一人の患者さんに十分な時間を取れば、複数の有資格者と協働することを前提に、先進の医療を一人の医者しかいない診療所でも提供できると考えます。
成功するためのポイント
では成功するためのポイントですが、大きく二つに分けられます。
1. ニーズの確認 何のためにやるのか
2. 方法の確認 システムと運用の組み合わせ
です。
1. ニーズの確認
患者さん、職員、医師のニーズの明確化が成功に繋がると考えています。
(1) 患者さんのニーズ
在院時間がはっきりしていること
必要十分な、診療・治療内容、 医師との対話、 医師に診てもらっている時間、 看護師や職員による対応、 精神的なケア
必要十分な在院時間
短い待ち時間
肉体的負担の軽減、経済的負担の軽減、精神的負担の軽減、時間的負担の軽減
(2) 職員のニーズ
患者さんにはっきりした在院時間を提示したい
患者さんを待たせる、精神的負担を負いたくない
ゆとりを持って患者さんに対応したい
診療時間のずれ込みは避けたい
自己投資したい
(2) 医師のニーズ
忙しすぎることなく、暇すぎることなく医療サービスを提供したい
必要十分な、職員、スペースで医療サービスを提供したい
患者さん、職員に満足してもらえる診療・治療内容を提供したい
満足した患者さんの口コミで新規の患者さんを獲得したい
学会に出席したい 自己投資したい
比較的長期に休みたい
計画的にリタイアしたい
先進の医療サービスを、現状に負担をかけず導入したい
2. 方法の確認
システムと運用の組み合わせ
高機能システムの導入が、良い結果に直接繋がるわけではない。
高機能システムは、両刃の剣であり、ハイリスク、ハイリターンなものであるという自覚が必要である。
高機能なシステムを機能させるためには、それなりの運用が必要と言うことである。
運用のノウハウがないところに高機能なシステムを導入すると、思わぬところにひずみを生じる場合もある。
失敗しないためのアドバイス
予約システムは両刃の剣であることを自覚する。
うまく機能すれば、すばらしい果実が得られるが、暴走すれば大きなマイナス要因になりかねない。
システムと運用は車の両輪で、両方が正しく動いて初めて機能する。
いつも、システム、運用に間違いがないか、患者さん、職員の声を聞く必要がある。
高価で、多機能なシステムが,必ずしも良いシステムを意味するわけではない。幅広い選択肢の中で、何が必要で何がいらないのか、何を使ってはいけないのか、選択しなければならない。
失敗と改善策
1. 最近初診が減っている。初診の患者さんの減少は、長期的に見て、大きな不安材料だ。
調べてみれば、再診枠が、初診枠を埋めていた。初診の枠を、再診の患者さんが入ることができない枠にすると初診の減少が止まった。
2. 検診を担当している職員の生産性が落ちている。
検診の患者さんが、予約時間に遅れたとき、5分待っても来院しないと、事業所連絡して来院させていた。このため、検診担当の職員の待ち時間が、長くなり、生産性が落ちていた。5分待って来院しないときには、キャンセルとして対応することで解決した。
検診は、あくまで、余剰リソースの有効利用であり、時間通りに来院して初めて、機能する。これを、時間通りに受け入れないで、リソース消費に偏りが出て、通常業務に支障を来していた。検診業務の位置づけに関しての情報を統一し、共有することが必要だった。
3. 職員の長期休暇中、検診が入っていた。移動可能な検診業務を、リソースの減少している時期に放置したことにより、通常の患者さんの受診機会を減らすことになった。
検診業務に関する考え方の統一と、共有が必要だった。
4. 木曜日、金曜日と火曜日の12時台の来院患者さんが少ない。
一人の職員が不足する30分間に対応するために、意識的に予約を減らしていたが、過剰反応していた。
意識的にこの時間帯を使うことで、この診療時間を有効利用することができるようになった。plan do check act のcheck 部分が抜けていたため、予約システムが暴走してしまっていた。
5. 自動予約で初診の患者さんの予約が入ったとき、受診理由を確認するため、患者さんに診療所から連絡をする必要があり、受付に負荷がかかっていた。
初診の患者さんには自動予約がとれないことにし、解決した。
6.患者さんが予約時間大幅前に来院する。
5分前に来てもらうように指示することで改善した。
7.初診の予約率が上がらない
初診で来院した患者さんも、予約枠で対応することにより、予約率が上がると共に、分散させることができた。
8.再来の予約率が上がらない。
予約システムを導入することにより、診療所側の予約制に対する真剣な取り組みを患者さんに理解していただき、再来予約率が上がった。また、再来の患者さんにも、予約枠での対応で、予約率が上がり、予約制の恩恵を享受できるようになった。
図に予約率の推移を示します。紙で30%程度だった予約率が,予約システムの導入後半年で65%程度の予約率になり,朝礼を毎日開くようになり75%,山口雅之先生の方針を5年前に取り入れて,初診患者さん、再来患者さんとも,来院された方も予約枠での受付にして,予約率が85%程度になりました。2006年に受付け担当者が退職したため,一時過度に柔軟性がなくなり,予約率が上がりすぎましたが,現在は90%程度に落ち着いています。
まとめ
予約システムを導入して8年になります。成功するためのポイントもありますし、失敗しないために、注意しなければならないこともあります。このインストラクションコースが、予約システムの運用の参考になれば幸いです。